山口地方裁判所 昭和41年(行ウ)2号 判決 1968年3月25日
山口市大字下竪小路四五番地
原告
岡部恭介
山口市
被告
山口税務署長 源氏田重義
右指定代理人
山田二郎
右同
村重慶一
右同
小川英長
右同
森本湊
右同
滝本嶺男
右同
西本宏
右同
吉富正輝
右同
伊藤教清
右同
常本一三
右当事者間の所得税査定金額に対する更正決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が昭和四〇年七月二六日付で原告に対し行なった昭和三七、同三八、同三九各年分所得税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
原告は、請求原因として、次のとおり述べた。
一、被告は昭和四〇年七月二六日付で原告に対し昭和三七年分九万五五〇〇円、同三八年分一一万七〇〇〇円、同三九年分五五万八八五〇円の各所得税の決定処分および昭和三七年分九五〇〇円、同三八年分一万一七〇〇円、同三九年分五万五八〇〇円の各無申告加算税の賦課決定処分(以下本件処分という)をしたが、原告から異議申立、審査請求をした結果、広島国税局長は、本件処分の一部を取り消し、その結果本件処分の残存部分は次のとおりとなった。所得税は、昭和三七年分五万八九〇〇円、同三八年分五万七五〇〇円、同三九年分三一万〇七九〇円、無申告加算税は、昭和三七年分五八〇〇円、同三八年分五七〇〇円、同三九年分三万一〇〇〇円。
二、しかしながら、本件処分は、昭和三七、同三八、同三九各年分不動産所得について、地代収入を認めた点(かりに地代収入ありとしても土地埋立費用を地代収入の経費として認めなかった点)、また、管理人雇傭の費用を家賃収入の経費として認めなかった点、および、昭和三九年分譲渡所得について、租税特別措置法第三八条の六の規定を適用して課税の対象から除外しなかった点において、違法であるから、その取り消しを求める。
被告指定代理人は、請求原因事実はすべて認めるが、本件処分が違法である旨の主張は争う、と述べ、次のとおり主張した。
被告は、原告が昭和三七、同三八、同三九各年分所得税について確定申告をしなかったため、本件処分を行なったものであり、その根拠は次のとおりであるから、本件処分は適法である。
一、配当所得について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分配当所得は、それぞれ二万円、二万円、七万円である。
二、不動産所得について
(一) 家賃収入について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分家賃収入は、それぞれ三六万八四〇〇円、三六万六〇〇〇円、四一万六〇〇〇円である。
(二) 地代収入について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分地代収入は、それぞれ六〇万円、六〇万円、七〇万円であり、これは、原告が訴外二光自動車工業株式会社(昭和三七年当時は二光塗装株式会社)から山口市大字吉敷字中三ツ畔第三三八八番地の二の土地の賃料として受け取ったものである。
(三) 不動産所得の計算関係について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分動産所得の計算関係は、それぞれ別表一の(一)(二)(三)記載のとおりであり、これは、原告が不動産所得について収支計算によって所得金額を計算し得るような帳簿等を備え付けていなかったので、原告の家賃および地代収入に、広島国税局作成にかかる商工庶業所得標準率表に定める所得率を適用し、さらに前記土地の埋立費用等八九万六〇〇〇円のための山口信用金庫からの借入金の支払利子を別表二の計算式で算出した額を標準外経費として計上したうえ、計算したものである。
三、譲渡所得について
原告の昭和三九年分譲渡所得は九〇万一五三六円であり、これは、原告が昭和三九年六月山口市大字下宇野令字上五反田一六番地の二の土地を訴外山口瓦斯株式会社に譲渡した代金二〇〇万円を別表三の計算式で算出したものである。
四、所得税額の計算関係について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分所得税額の計算関係は別表四の(一)、(二)、(三)、記載のとおりである。
原告は次のとおり答弁および主張をした。
原告が昭和三七、同三八、同三九各年分所得税について確定申告をしなかったことは認める。
(原告の現実所得から支出経費を控除すれば申告すべき所得額がなかったから、申告を要しなかったものである。)
一、配当所得について
認める。
二、不動産所得について
(一) 家賃収入について
認める。
(二) 地代収入について
争う。原告は訴外二光自動車工業株式会社から被告主張の金員を受け取ったが、これは土地埋立費用の立替金の返還を受けたものである。
(三) 不動産所得の計算関係について
争う。家賃収入のための経費として月額二万五〇〇〇円の管理人雇傭の費用、地代収入のための経費として土地埋立費用が、いずれも計算に入っていない。
三、譲渡所得について
争う。原告が訴外山口瓦斯株式会社に被告主張の代金で土地を譲渡したことは認める。
しかし、そのころ訴外山下ノブから代金一九六万円で土地を買い受け、これに要した経費を合算すると、前記譲渡の代金額を超えるから、租税特別措置法第三八条の六を適用して非課税とすべきものであり、かりに右規定の適用について確定申告を要するとしても、租税特別措置法第三八条の三第三項但書にいわゆるやむを得ない事情があると認められるべきである。
四、所得税額の計算関係について
認める。
被告指定代理人は、原告が前記土地譲渡のころ原告主張の代金で土地を買い受けたことは認めるが、原告の主張は争う、と述べた。
原告は、甲一ないし一二号証を提出し、証人永田春視の証言、(第二回)、原告本人尋問の結果を援用し、乙各号証の成立は認める、と述べた。
被告指定代理人は、乙一号証、同二ないし四号証の各一、二、同五号証を提出し、証人永田春視(第一回)、同下森貴代登、同藤田敏雄の各証言を援用し、甲五、六号証、および同一〇号証のかっこ書きの部分の成立は不知、その余の甲各号証の成立は認める、と述べた。
理由
被告が昭和四〇年七月二六日付で原告に対し本件処分をし、原告が異議申立審査請求を経由し、その結果本件処分の残存部分が原告主張のとおりとなったことは、当事者間に争いがないので、本件処分が適法であるか否かについて判断する。
原告が昭和三七、同三八、同三九各年分所得税について確定申告をしなかったことは当事者間に争いがない。
一、配当所得について
昭和三七、同三八、同三九各年分配当所得がそれぞれ二万円、二万円、七万円であることは当事者間に争いがない。
二、不動産所得について
(一) 家賃収入について
昭和三七、同三八、同三九各年分家賃収入がそれぞれ三六万八四〇〇円、三六万六〇〇〇円、四一万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(二) 地代収入について
原告が昭和三七、同三八、同三九各年に、訴外二光自動車工業株式会社から、それぞれ六〇万円、六〇万円、七〇万円を受け取ったことは当事者間に争いがない。そこで、右金員が地代収入であるか否かについてみるに、成立に争いのない甲七、八号証、乙一号証、証人永田春視(第一回)、同下森貴代登の各証言によると、前記金員は、原告が前記訴外会社から山口市大字吉敷字中三ツ畔第三三八八番地の二の土地の賃料として受け取ったものであると認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は措信することができず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、前記金員は原告の前記各年分地代収入である。
(三) 不動産所得の計算関係について
前記のとおり、原告は所得税について確定申告をしなかったものであり、証人永田春視の証言(第一回)によると、原告は昭和三七、同三八、同三九各年分不動産所得の調査についてまったく協力せず、収支計算によって所得金額を計算し得るような帳簿を提出しなかった事実が認められるから証人藤田敏雄の証言により広島国税局によって多数の納税義務者の正確な記帳にもとづき科学的、統計学的に計算作成されたものと認められる商工庶業所得標準率表(成立に争いのない乙二、三号証の各一、二の所得率(昭和三七、同三八、同三九各年分とも、家賃収入について七五%、地代収入について七〇%)の範囲内で経費を計上し、さらに原告が訴外二光自動車工業株式会社に賃貸した土地の埋立費用等八九万六〇〇〇円のための山口信用金庫からの借入金の支払利子(成立に争いのない乙四号証の二、証人永田春視の第一回証言、同下森貴代登の証言によると日歩二銭八厘であったものと認められるからこれを別表二の計算式で算出した額)を標準外経費として計上した推計課税方法に違法はないというべく、右方法により計算すると原告の昭和三七、同三八、同三九各年分不動産所得額は別表一の(一)(二)(三)記載の金額になる。
なお、原告は家賃収入のための経費として月額二万五〇〇〇円の管理人雇傭の費用がある旨主張するけれども、これに副う甲六号証、乙五号証、原告本人尋問の結果は前記各証拠に照らし措信することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、土地埋立費用は一種の資本的支出であって、その全部が年間地代収入に対応する経費とはみられないのであるから、そのための借入金の年間支払利子を必要経費と認定した点に違法はないというべきである。
三、譲渡所得について
原告が昭和三九年六月山口市大字下宇野令字上五反田一六番地の二の土地を訴外山口瓦斯株式会社に代金二〇〇万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。
なお、そのころ原告が訴外山下ノブから代金一九六万円で土地を買い受けたことも当事者間に争いがないけれども、当時の租税特別措置法第三八条の六の規定は、その第四項本文によると、確定申告があった場合にはじめて適用されるものであり、前記のとおり昭和三九年分所得税の確定申告をしていない原告には適用されない。また、本件全証拠によるも確定申告をしないことについて右規定第四項により準用される同法第三十八条の三第三項但書にいう「やむを得ない事情」があったものとは認められない。
(なお原告は、現実の所得から支出経費を控除すれば申告すべき所得がなかった旨主張するが、原告が必要経費について確定申告しないかぎり、合理的な方法による推計課税の方式が許されると解すべきであるから右の主張は理由がない。)
したがって、原告の昭和三九年分譲渡所得は原告が土地の譲渡によって得た前記代金を所得税法、同法施行規則に基づき、別表三の計算式で算出した九〇万一五三六円となる。
四、所得税額の計算関係について
原告の昭和三七、同三八、同三九各年分所得税額の計算関係は別表四の(一)、(二)、(三)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
以上の事実によると、被告が、所得税法、国税通則法に基づき、原告の前記昭和三七、同三八、同三九各年分各所得について、別表四の(一)(二)(三)記載のとおり右各年分所得税、無申告加算税を計算し、その決定、賦課決定をした本件処分は適法でありその取り消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 大須賀欣一 裁判官 大前和俊)
別表の一の(一)
不動産所得の計算表
<省略>
別表一の(二)
不動産所得の計算表
<省略>
別表一の(三)
不動産所得の計算表
<省略>
別表二
借入元本 利率 期間
<省略>
昭和39年分については期間366、標準外経費91,750円
別表三
譲渡所得の計算表
<省略>
「注」 本件譲渡田地を原告が取得したのは昭和二七年一二月三一日以前であるから所得税法第一〇条の五第三項および同法施行規則第一二条の一九第一項の規定により右譲渡資産の取得価額は昭和二八年一月一日現在の相続税評価基準に定める評価額によることとなるから、右評価基準に定める方法、すなわち右譲渡資産の旧賃貸価格二九円三三銭を一、六〇〇倍して算出した四六、九二八円を計上した。
別表四の(一)
昭和三七年分所得税の総所得金額等の計算表
<省略>
別表四の(二)
昭和三八年分所得税の総所得金額等の計算表
<省略>
別表四の(三)
昭和三九年分所得税の総所得金額等の計算表
<省略>